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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1282号 判決 1994年7月06日

平成三年ネ第一二六六号事件控訴人、同第一二八二号事件被控訴人(以下「第一審原告」という。)

村山章

右訴訟代理人弁護士

中村雅人

神山美智子

関智文

山脇誓子

平成三年ネ第一二六六号事件被控訴人、同第一二八二号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)

ジョンソン株式会社

右代表者代表取締役

本田隆男

右訴訟代理人弁護士

渡部喬一

赤羽健一

小林好則

中村光彦

右渡部喬一訴訟復代理人弁護士

仲村晋一

松尾憲治

小林聡

主文

一  第一審原告の控訴を棄却する。

二  第一審被告の控訴に基づき、原判決中第一審被告の敗訴部分を取り消し、右部分の第一審原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、第一審原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告

1  原判決中第一審原告の敗訴部分を取り消す。

2  第一審被告は第一審原告に対し、金一二〇三万六九八四円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審被告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  第一審被告

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、当審における次の主張を加えるほかは、原判決書の「事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  第一審原告

仮に第一審原告が慢性気管支炎に罹患したことが認められないとしても、第一審原告はカビキラーの使用により、(複合)化学物質過敏症に罹患したことを主張する。化学物質過敏症とは、ある化学物質に大量に曝され、または反復して曝されることによって引き起こされる症状が、その後は同種の微量の化学物質に曝されることによっても引き起こされることとなる慢性的健康被害の一種である(ある化学物質に曝されることによって引き起こされた症状が、別の微量の化学物質に曝されることによっても引き起こされることがあり、複合または多重化学物質過敏症といわれている。)。第一審原告は、カビキラーのミストを吸入した直後の咳、痰、咽頭部の灼熱感などの被害から、化学物質過敏症というさらに慢性化した健康被害をこうむった。

化学物質過敏症は、本件カビキラーの製造、販売当時第一審被告には予見可能であった。すなわち、アメリカ合衆国においては、後日化学物質過敏症と名付けられた疾患について、一九四五年頃からランドルフ教授らにより紹介されていたが、一九七三年頃には、アメリカの学会においては化学物質過敏症という疾患が存在することは一般に知られていた。第一審被告の親会社であるS・Cジョンソン・アンド・サン・インクは、アメリカに本社を置く会社であるから、化学物質過敏症のことを知っていたか又は知ることが可能であり、同社の子会社である第一審被告も化学物質過敏症のことを知っていたか又は知ることが可能であった。

仮に、第一審被告が親会社を通じて化学物質過敏症のことを知っていたか又は知ることが可能であったといえないとしても、カビキラーは、もともと人の身体に有害な毒性を有する次亜塩素酸ナトリウム等の化学物質を含有するものであり、これらの物質はしばしば人体に被害を引き起こしてきたものであるから、その製造・販売にあたっては、最高水準の調査、研究をすることによって万が一にも人体に被害を及ぼさないようにし、もし人体に無害であることは確実でないと疑われる場合は販売しないなどして、人体の被害の発生を予防・回避する義務を有していた。その義務の一貫として、アメリカ合衆国をはじめとする諸外国の文献や医学会の研究発表等を調査する義務があった。

次亜塩素酸ナトリウム溶液は、強アルカリであり、生体腐食性を有しており、本件カビキラーの製造・販売当時、すでにアメリカ連邦危険物標示法によると、次亜塩素酸ナトリウムを主体とする製剤には警告表示が義務づけられていた(甲第一号証)。また水酸化ナトリウムは、生体組織に対して腐食作用があり、その原体及びそれを五パーセントを超えて含有する洗浄剤は、劇性を有するものとして毒物及び劇物取締法により、劇物としてその取扱が規制されていたものである(甲第二号証)。

したがって、第一審被告としては、右義務を尽くしていれば、アメリカ合衆国の医学界においては化学物質過敏症と名付けられた疾患が一般化していることは容易に知り得たはずであり、第一審被告は、化学物質過敏症を予見することは十分可能であった。

二  第一審被告

第一審原告が、(複合)化学物質過敏症に罹患しているとの主張は争う。そもそも、化学物質過敏症なるものは、一部の研究者によって提唱されている仮説に過ぎず、診断基準も確立されていないものであって、医学界で確立された定説にはなっていない。

第一審原告の資本系列としての親会社がアメリカに本社をおいていることは認めるが、両法人は別の法人であるから、第一審被告において化学物質過敏症の予見可能性があったとの主張は争う。当時は、日本ではもとより、アメリカでも(複合)化学物質過敏症についての考え方は一般的には認知されていなかった。化学物質過敏症が日本の学会誌に紹介されたのは、三、四年前が始めてであり、第一審原告がカビキラーを使用したとする昭和五八年当時は、日本では一般に化学物質過敏症という病気は知られていなかった。したがって、仮に(複合)化学物質過敏症なる病気があるとしても、第一審被告に予見可能性はなかった。

第三  証拠の関係は本件記録中の証拠目録(原審及び当審)に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一第一審原告のカビキラーの使用状況と第一審原告に生じた症状及び第一審原告に対する診断、治療の経過について

右の点についての当裁判所の判断は、次に付加するほかは、原判決が説示するところ(原判決書一一枚目裏八行目から一六枚目表七行目まで)と同じであるから、これを引用する。

1  原判決書一二枚目表二行目の「原告は、」から四行目の「使用直後に」までを「カビキラーを使用すると、目がちかちかしたり、咳き込んだり、喉の痛みを覚えたりしたが、そのまま使い続けていたところ、同年九月頃から」に、七行目の「すると、使用した直後から」を「その頃から」に、それぞれ改める。

2  原判決書一二枚目裏一行目の「一二月九日にはカビキラーの使用後、」を「一二月九日夜、ガス湯沸かし器を使って台所で片付けをしているときに(第一審原告の供述によると、当日は、第一審原告自身はカビキラーを使ってはいないといい、一審原告の夫が昼に使ったかもしれないが、はっきりしないという。)」に改める。

二第一審原告の症状とカビキラーとの因果関係

1  慢性気管支炎又は急性気管支炎について

第一審原告は、第一審原告の前記症状はカビキラーの使用による慢性気管支炎又は急性気管支炎であると主張するところ、菅医師の意見書(甲第五号証)によれば、同医師は、次亜塩素酸ナトリウムから発生した塩素ガスによる症状と第一審原告の症状が似ていること、第一審原告の症状の発症がカビキラーの使用開始と軌を一にしていること、他にこれといった原因が考えられないことなどから、第一審原告の症状をカビキラーによる慢性気管支炎であるとしている。また、次亜塩素酸ナトリウムは酸例えば強酸性のトイレ用洗浄剤などと反応して塩素ガスを発生させ、これを吸入すると気道粘膜の刺激、しわがれ声、咽頭部の灼熱感、疼痛、激しい咳などを生ずる(甲第一、三、七号証、第一三号証の一ないし六、第三二、三三、四六ないし五〇号証、原審証人内藤の証言)。そして、カビキラーは、次亜塩素酸ナトリウムの漂白作用によってカビの色素を漂白するもので、次亜塩素酸ナトリウムの分解を防止するため、薬液に一%の水酸化ナトリウムを配合しているが(乙第一、二号証)、カビキラーに含まれている次亜塩素酸ナトリウムは、PH7.0以下になると急激に分解が進み、塩素ガスが発生するところ、人の気道粘膜はPH7.0前後であるから、気道粘膜に付着した次亜塩素酸ナトリウムはPHが低下して一部塩素ガスとなって吸入され、この塩素ガスが人の気道粘膜を損傷するとの甲第三四、四六号証及び原審証人内藤の証言がある。

しかし、前記のとおり第一審原告が入院した病院ではいずれも慢性気管支炎との診断はなく(化研病院の外来診療録である乙第七号証の一乃至一四、八号証の一ないし二五の冒頭の傷病名欄に「慢性気管支炎」とか「アレルギー性気管支炎の疑」という記載があるが、これは診断結果を示すものでないことは全体をみれば明らかである。なお、このときは、第一審原告は主として体を動かしたときの息苦しさを訴えていたことが窺える。)、また、一般に慢性気管支炎に罹患している場合には、人の気道内に相当の器質的変化が生じているはずである(内藤証言)のに、東京医科歯科大学の検査では、第一審原告の気管支には炎症、粘膜損傷といった呼吸困難などを引き起こす器質的変化は認められなかったというのである。第一審原告が東京医科歯科大学病院に入院して各種の検査を受けることになったいきさつからいって、同大学の横田医師は第一審原告の症状とカビキラーとの関係を念頭に置いて特に気管支炎等を疑って検査、診断に当たったことは間違いないと考えられるのに、二九日間にも及ぶ各種検査にもかかわらず第一審原告の病名を特定することができなかったこと、乙第三、四号証の東京医科歯科大学病院退院時の所見の記載によると、まず第一審原告の気管支には器質的変化が認められないことが記載され、続けて%最大換気量が51.6%であること、及び横隔膜の運動を制限する姿勢で呼吸困難が起こることを挙げて、肥満や更年期障害の影響が考えられるとしているのであって、この文脈からすると、気管支炎を明示的に否定してはいないものの、気管支炎との診断にはむしろ消極的な意見であったことがみてとれることも、本件における認定に当たって無視できないところである。第一審原告は、思うような検査をしてくれなかったというが、右第乙三、四号証によると、同病院では第一審原告が訴えている症状から考えられる病気をいくつか想定して各種検査を実施していることが認められるのであって、第一審原告のいうような事情を窺わせる証拠は見当たらない。第一審原告の非難は当たらない。以上の事実に照らしてみると、第一審原告が慢性気管支炎ないしは気管支の慢性的な疾病に罹患していたと認めることはできないものというほかない。

なお、第一審原告は、第一審原告の気管支の損傷は亜区域支から先の部分に生じていると主張し、内藤証言及び甲第三五号証中には右主張にそう部分がある。しかし、これら、ことに甲第三五号証は、いずれも塩素ガスによって生体に損傷を生じた場合に関するものであるところ、カビキラーは、次亜塩素酸ナトリウムを含んでいるが、その分解を防止するため水酸化ナトリウムを配合してあり(乙第一、二号証)、塩素ガスが発生するようになるのは、酸性洗剤を併用するなどして、酸性が強くなった場合であるとされており(甲第三五号証)、第一審原告はカビキラーと酸性の洗浄剤を併用したことはないと述べている(第一審原告本人尋問の結果)こと、そうだとすると、第一審原告の場合、吸入されたカビキラーのミストが塩素を発生させたこと以外には考えられないことになるが、後の3で触れるように、モルモットによる実験でも一過性の症状に止まっていること、及び前記東京医科歯科大学病院の所見は、他の検査結果を併せた診断結果として、肥満及び更年期障害も疑われることを挙げて、病名を特定することができないとしたものであることに照らすと、右各証拠をもって東京医科歯科大学病院の所見を否定し、第一審原告の慢性気管支炎を認定するには無理がある。第一審原告の主張は採用することができない。

次に、横田医師作成の甲第四号証の三には、第一審原告の傷病名として急性気管支炎と記載されている。しかし、同証は、第一審原告が保険会社から保険金の交付を受けるために作成された書類に過ぎないし、急性気管支炎の原因は不明と記載されているうえ、前記認定の第一審原告の診断、治療の経緯及び後の3に判示するとおりの事実を併せ考えると、同証をもって第一審原告の症状が(カビキラーによる)急性気管支炎と認定することはできず、前記認定の第一審原告の診断治療の経緯に照らして、第一審原告の症状が急性気管支炎であると認めることも困難である。

2  化学物質過敏症について

甲第五七号証の一、二及び当審証人宮田幹夫の証言によれば、化学物質過敏症とは、比較的大量又は繰り返して化学物質に暴露されると、その後暫くして再度その微量な化学物質に接触したときに、耐えられない症状を呈する状態をいい、一旦このような状態になると、他の化学物質にも過敏になってしまうことがあり、これを複合又は多重化学物質過敏症というところ、アメリカの医学界ではすでに一九四五年前後からこのような症状の現れることがあることを示唆する意見があり、その後次第に知られるようになって専門の学会も組織されて研究が進んでいること、そこで得られた最近の知見に基づけば、第一審原告の症状は、初期の段階では本件カビキラーの使用による化学物質過敏症と診断でき、現在の症状は完全に複合化学物質過敏症の段階にある、というのである(以下「宮田意見」という。)。確かに、宮田意見は、第一審原告の前記症状の発現がその主張のとおりであったとすると、カビキラーの吸引との間の関連を合理的に説明するに当たって考えられる一つの見解であると評することができよう。

しかし、甲第五七号証の二(宮田幹夫の「化学物質過敏症」と題するニュージャージー州保健局への報告書)についての名古屋大学医療技術短期大学教授鳥居新平の「報告書に関する所感」と題する書面(乙第一六号証)、乙第一七号証に記載されている東京医科歯科大学医学部第二内科医局の医師市岡正彦の意見、及び森の里病院院長荒木五郎の意見書(乙第一八号証)によれば、化学物質過敏症は、一部の学者の研究上の仮説であり、未解明の分野であって、その診断基準も確立されておらず、宮田意見は問診だけに頼ったもので、医学的裏付けに乏しく、信頼性に疑問があるという意見もあることが認められる。そして、化学物質過敏症の診断基準が確立されていないこと、及び宮田証人が第一審原告の症状を本件カビキラーの使用によると判断したのは主として問診の結果によるものであることは、右宮田証人も認めているところである(同証人の証言によると、血液検査の結果による客観的な診断方法はまだ確立されておらず、研究段階であるという。そして、これまでに得られた研究結果に基づく限り、第一審原告の血液検査の結果は、必ずしも期待した結果を示さず、精神安定剤の使用を前提にしない限り、化学物質過敏症と診断するにはかえって矛盾する部分もあることも認めている。)。しかるに、第一審原告が訴える症状の出現状況が必ずしもそのままには採用できないことは後に判示するところであり、これらの事情と、すでに判示したように、第一審原告の身体的状況を詳しく検査した東京医科歯科大学での診断が慢性気管支炎との診断には消極的であるとみられ、むしろ肥満及び更年期障害による症状を疑っているものとなっていることに照らすと、第一審原告の前記症状が本件カビキラーの使用による化学物質過敏症であるとする宮田証人の意見をそのまま採用して、第一審原告がカビキラーによる化学物質過敏症に罹患していたものと認めることは、困難といわざるを得ない。

3  カビキラーの使用と第一審原告のその他の健康被害の有無について

以上のとおり、第一審原告の前記症状は、これまでに明らかにされている医学的知識に基づく特定の病名で統一的に理解することはできないというほかないが、明確な病名で呼ばれる疾患とはいえなくても、第一審原告の前記症状のうちで健康被害といえる程度の症状が認められ、その症状とカビキラーの使用との間に因果関係が認められるなら、第一審原告の損害賠償請求の一部を認容する余地があるので、さらにこの観点から検討する。

カビキラーの成分及びその性質、毒性、カビキラーのミストを吸入したときの生体への影響、並びに第一審原告のカビキラーの使用状況等についての当裁判所の判断は、原判決書一八枚目表二行目から二三枚目表三行目まで、及び同二五枚目表七行目から二七枚目表一〇行目までに説示するとおりであるから、これを引用する。

右に認定した事実によれば、一定の濃度以上のカビキラーのミストを吸入すると、モルモットの実験では、目のまばたき、閉眼、呼吸促迫、腹臥状態、酩酊状態、体緊張度の低下といった一過性の症状が生ずることがあり、また、カビキラーを使用する際に、使用者が空気中に飛散、拡散したカビキラーの薬液を吸入すると、くしゃみ、咳き込み、気道粘膜の刺激感といった一過性の症状が生ずることのあることが認められ(カビキラーのような噴霧式のものではなくても、次亜塩素酸を使った漂白剤を使うときには、同じような症状を呈することがあることは、多くの人が経験することであろう。)、この事実とすでに認定した第一審原告のカビキラーの使用状況からみると、第一審原告のカビキラーの使用により、第一審原告に急性に健康被害が生じたことを疑うのにはもっともなところがある(慢性気管支炎等の慢性的症状が生じたとは認められないことはすでに判断したところである。)。

しかし、前記のとおり、カビキラーは次亜塩素酸ナトリウムを含んではいるが、カビキラーから塩素ガスが発生するのは酸性洗浄剤などとの併用により酸性が強くなった場合であり、第一審原告はカビキラーを酸性の洗浄剤と併用したことはないというのであるから、第一審原告のカビキラー使用中に塩素ガスが発生したとは考えにくいところであるし、第一審原告がカビキラーを使うたびに生じた症状が第一審原告がいうほどひどい症状であったかには、疑問がある。第一審原告は、カビキラーを使う度に、喉がいらいらして咳が出るというだけでなく、喉に焼けるような痛みを覚え、息苦しくなって呼吸が困難な症状まであって、そのような症状が一日中続いたとも供述するのであるが、もしそのとおりであるとすると、いくら医学の知識がないにしても、カビキラーを使うこととの関連を当然気付きそうなものである。ところが、第一審原告は、かびが原因であると思って、前にも増して頻繁にカビキラーを使ったという。カビキラーを使う度に第一審原告に重い症状が生じたというのは、理解できない供述である。第一審原告のいうように、咳がでたり、喉に焼けるような痛みを覚えたり、息苦しく、体を動かすと呼吸困難になるなどの症状があったというのはそのとおりなのであろうが、それがカビキラーを使う度に生じた症状であったとの第一審原告の供述は、そのままには採用することができない(前掲乙第三、四号証によれば、第一審原告が東京医科歯科大学で検査を受けている当時、医師に述べたところでは、昭和五八年一二月九日夜に呼吸困難になって救急車で寿康会病院に運ばれた際にも、カビキラーを使った直後に呼吸困難になったと訴えていたことが認められるが、前述のとおり、原審での供述では、当日は自分がカビキラーを使っていないという。)。そうすると、第一審原告がカビキラーを使用したことによって生じた症状は、不快感を伴うようなものであるにせよ、こうした製剤を使う際にありがちな一過性の症状を出るものであったとまでは認めがたく、不法行為に基づく損害賠償請求の根拠とし得るほどの健康被害を受けたと認めることはできない。

三以上のとおりであるから、その余の点については判断するまでもなく、第一審原告の請求は理由がないものとして全部棄却を免れない。したがって、第一審原告の請求を一部認容した部分については原判決は相当でないから、その部分の取消しを求める第一審被告の控訴は理由があるが、第一審原告の請求を棄却した部分については原判決は相当であり、第一審原告の控訴は理由がない。

よって、第一審被告の控訴に基づき原判決中第一審被告敗訴部分を取り消したうえ、この部分についての第一審原告の請求を棄却することとし、第一審原告の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官上谷清 裁判官小川英明 裁判官曽我大三郎)

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